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副業300万円問題~あなたの副業は事業所得or雑所得

 本業以外に副業をされている方が確定申告をする場合に、副業は何所得になるのかについて、国税庁より通達が出されました。
 副業収入が300万円以下の方が、事業所得として申告するために、必要なことが、今回通達に追加されました。

副業300万円問題とは

 本業以外に副業をしている方が、副業を事業所得として赤字化させ本業の給与所得と損益通算したり、また事業所得として65万円の青色申告特別控除の適用を受け、課税所得を減少している申告が散見されるとし、問題視されていました。

 そこで国税庁は、「300万円以下の副業収入は、雑所得とする」という通達を出したところ、7000通を超える意見が集まったとのことです。

国税庁への意見公募の結果はこちら(令和4年10月7日)

7000を超えるパブリックコメントの一部と国税庁の対応について

 意見公募の一部を抜粋し、検討してみました。

意見① 実態を見て判断すべき、形式的な基準を設けるべきでない。

国税庁の考え方


 副業収入が300万円以下の場合は雑所得と判定するのは、所得区分の判定が明確化され、申告しやすくなるため、副業を推進する政府の方針と一致している。


 ➡そもそも、所得区分は実態を見て判断すべきで、単純に金額だけで所得区分を判定をすべきではないのではないでしょうか。

 過去に馬券訴訟がありましたが、こちらでは所得区分について最高裁まで争われ、納税者が勝訴したことで有名な事件です。

 この事件の判決前の通達では「競馬の払戻金は一時所得」とされていましたが、最高裁判決では、”いずれの所得区分に該当するかを判断するに当たっては、所得の種類に応じた課税を定めている所得税法の趣旨、目的に照らし、所得及びそれを生じた行為の具体的な態様も考慮すべきである”と述べられています。

 この最高裁判決をみても、今回の「副業300万円以下は雑所得」とする国税庁の考え方は、形式的な基準であり具体的な態様を一切考慮されていません。
しかし、通達では形式基準でしか記載できないというのも分かります。2度の馬券訴訟の判決後には、その都度、通達に個別具体的な条件が加えられました。通達で事細かに個別具体例を述べられると、申告実務に悪影響を及ぼしかねず、分かり易い形式基準がある方が、実務においては判断しやすいというのも理解できます。

 次の意見を見ると、今回の「副業300万円以下は雑所得とする」という通達と、過去の判例との整合性についての国税庁の考え方が見えてきます。

 

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意見② 今回の通達は、従来の裁判例の考え方と齟齬をきたすのではないか。

国税庁の考え方


 今回の通達改正では、「その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかにより判定する」ことを原則としつつ、社会通念での判定で事業所得に該当しない場合を明らかにしたもの。
 事業所得又は業務に係る雑所得に対する従来からの考え方に変更を加えるものではない


➡「社会通念上」という不確定概念を持ち出しつつ、「300万円以下」という具体的な判定要素を持ち出していることのアンバランスさを感じます。
「今は、収入少ないけど、同業者の中には稼いでいる人もいるよ、十分生計を立てられる業務内容だよ。」というような活動であれば、事業所得としていいよ、と個人的に捉えました。
 しかし、この業務活動は、どうあがいてもこれだけで生計を立てられるような業務内容じゃないぞ、という場合には事業所得になり得ないということになるのでしょうか。

これにつていは、次の意見に対する国税庁の考え方を見れば、解決できそうです。

意見③
●真面目に記帳等をしている者は、収入金額 300 万円以下の副業であっても事業所得と取り扱うべき。
●今回の通達改正により、記帳・帳簿書類の保存を行っていた者が、記帳・帳簿書類の保存を行わなくなるのではないか。

国税庁の考え方

 パブリックコメントにおける御意見を踏まえ、主たる所得かどうかで判定するという取扱いではなく、所得税法上、事業所得者には、帳簿書類の保存が義務づけられている点に鑑み、帳簿書類の保存の有無で所得区分を判定することとし、通達を修正し、収入金額が 300 万円以下であっても、帳簿書類の保存があれば、原則として、事業所得に区分されることとなります。

事業所得者に対しては、記帳・帳簿書類の保存が義務付けられているため、収入が300万円以下であり、記帳・帳簿の保存がない場合には、事業所得として認められないということで決着がついたようです。
 結局”副業300万円以下”という形式基準はそのままで、記帳・帳簿の保存を要件とすれば事業所得と認めるということで落ち着きましたが、申告する側においても、事業所得として主張するのであれば、事業として利益を追求し継続していくためにも、当然に記帳及び帳簿の保存をすべきことは、納得できるものではないでしょうか。

適用はいつの確定申告から?

 この通達は、令和4年分の確定申告から適用されるとのことです。

そのため令和4年分より事業所得として認められるためには、取引内容を記帳し保存しておかなければ、否認される可能性があります。

 もし、副業の収入が300万円以下で、事業所得として申告をされていたが、これまで記帳が曖昧なままだった場合は、会計ソフトの導入も検討するのも良いかもしれません。

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副業が「雑所得」と判断されないために

 今後の取扱いとしては、副業の収入が300万円以下であり、その副業に係る取引を帳簿書類に記録されていない、又は記録はしているが帳簿書類が保存されていない場合は、雑所得と判断されます。そのため、事業所得として確定申告をする場合には、記帳・帳簿の保存が必須となります。
(この場合の副業は、事業所得又は業務に係る雑所得のいずれに該当するかを判断するものであり、例えば、給料として支給されている場合は給与所得となり、賃貸アパート等の不動産収入を得ている場合は不動産所得となります。)

 ただし、税務は実態で判断されるため、例え記帳及び帳簿の保存がされていたとしても、事業所得として認められない場合もあるかもしれません。
 しかし今回の通達で、本業が別にあり副業の収入が300万円以下で、記帳及び帳簿の保存がないということであれば、事業所得としては認められないと公表されたのです。

 今後は、記帳及び帳簿の保存は重要視され、厳しくチェックされるようになると思われます。

 また、青色申告者の65万円の特別控除は、複式簿記による記帳が要件とされています。65万円の特別控除を受けたいために、帳簿の提出はしなくてよいからと、記帳もせずに貸借対照表をつけていたとしても、損益計算書との整合性や前年からの数字の引き継ぎの整合性が不適切な場合は、正確な帳簿の記載がされていないものとして、青色申告を取り消されることもあります。

 簿記の知識がある方であれば、自作の帳簿でも良いと思いますが、会計ソフトを導入する方が、記帳の正確性が増し、かつ記帳作業も楽になります。

 会計ソフトの導入が苦手という方であれば、税理士への依頼を選択肢の一つに入れてみてもいいかもしれません。
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 参考 法第35条(雑所得)関係

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