
個人事業主として開業したいと思われている方や開業して青色申告の届出をしたけど、青色申告って具体的にどんなメリットがあるかあまり知らないという方もいらっしゃるのではないでしょうか?個人事業主にとって、青色申告の承認を受けることは、節税や財務管理の面で多くのメリットをもたらします。そこでこの記事では、主な青色申告の特典について詳しく解説します。
1. 青色申告特別控除
青色申告を行うことで、青色申告特別控除を受けることが可能です。正規の複式簿記を用い、確定申告を期限内に提出した場合、所得からこの控除額を最大65万円差し引くことができます。これにより、所得税や住民税が大幅に軽減されるため、非常に大きな節税効果があります。
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2. 赤字の繰越・繰戻し
青色申告者は、事業の赤字を最大3年間繰り越すことができます。これにより、黒字になった年にその赤字分を相殺し、税負担を軽減することが可能です。(純損失の繰越控除)
また、前年が黒字であれば、赤字の年の損申告書と還付請求書を提出することにより、赤字を繰り戻して前年度の税金の一部を還付を受けることができます。(純損失の繰戻による還付)
3. 家族従業員の給与計上が可能
青色申告を行っている場合、家族に支払う給与も経費として計上できます。これにより、家族が手伝っている事業でも給与を適切に支払い、その分所得を減らすことができるため、さらに節税につながります。家族従業員を正当に評価し、事業の拡大に向けた計画を立てやすくなります。(青色事業専従者控除)
青色事業専従者給与の支給額を必要経費とする場合には、青色申告の承認申請書の他、「青色専従者給与に関する届出書」を税務署に提出し、その届出書に記載した方法で、記載された金額の範囲内で青色事業専従者に給与を支給する必要があります。
青色事業専従者は、青色申告者と生計を一にする配偶者や15歳以上の親族であり、その年を通じて6か月以上、その事業に従事している必要があり、学生や他に職業があるものなどは原則として、青色事業専従者として認められません。
青色事業専従者控除を受けた場合には、配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除の適用は受けられません。
そのため、家族に支給する給与の額が、配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除の額より少ない金額となるのであれば、青色事業専従者控除ではなく、配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除の受けた方が有利となります。
4. 30万円未満の資産を全額経費として計上可能
青色申告の特典の一つとして、30万円未満の少額減価償却資産を取得した場合、年間300万円に達するまで取得価額の合計額を限度として、少額減価償却資産の取得価額を必要経費として計上することが可能です。通常、減価償却資産は数年にわたって償却する必要がありますが、青色申告者はこの特例を利用することで、30万円未満少額の資産については取得年に全額を経費化できるため、キャッシュフローの改善や税負担の軽減に大きなメリットがあります。
この特例の適用を受ける場合には、確定申告書に少額減価償却資産の取得価額に関する明細書の添付が必要です。
この特典により、パソコンや事務機器、事業用車両などの設備投資を積極的に行いたい事業主にとって、青色申告が非常に有利な選択となります。
5. 一括評価による貸倒引当金の計上
青色申告をしている場合、貸し倒れによる損失の見込額として、一括評価による貸倒引当金を計上することが可能です。これは、売掛金の回収不能リスクに対する備えとして、税務上の経費として計上できるものです。これにより、事業のキャッシュフロー管理がより柔軟になります。
繰入限度額
(1)その事業の主たるものが金融業以外の事業である場合
(その年12月31日現在における一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額)×55/1000
(2)その事業の主たるものが金融業である場合
(その年12月31日現在における一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額)×33/1000
一括評価金銭債権とは
売掛金・貸付金・受取手形など次のものが該当します。
1 売掛金、貸付金
2 未収の譲渡代金、未収加工料、未収請負金、未収手数料、未収保管料、未収地代家賃等または貸付金の未収利子で、益金の額に算入されたもの
3 他人のために立替払をした場合の立替金(下記の「一括評価金銭債権に当たらないもの」の4に当たるものを除きます。)
4 未収の損害賠償金で益金の額に算入されたもの
5 保証債務を履行した場合の求償権
6 通算税効果額に係る未収金
7 売掛金、貸付金などの債権について取得した受取手形
8 売掛金、貸付金などの債権について取得した先日付小切手のうち法人が一括評価金銭債権に含めたもの
9 売買があったものとされる法人税法上のリース取引のリース料のうち、支払期日の到来していないもの
仕訳等
貸倒引当金として繰り入れた金額は翌年に戻し入れの処理をする必要があります。
(1)洗替法
(仕訳例)
期末に1,000円を貸倒引当金として計上する場合
期末
貸倒引当金繰入額 1,000 / 貸倒引当金 1,000
翌年
貸倒引当金 1,000 / 貸倒引当金戻入額 1,000
(仕訳例)
期末に1,000円を貸倒引当金として計上していたが、翌年その一部の300円が貸倒れて、翌年新たに
1,200円の貸倒引当金として計上する場合
期末
貸倒引当金繰入額 1,000 / 貸倒引当金 1,000
翌年
貸倒引当金 300 / 売掛金 300
貸倒引当金 700 / 貸倒引当金戻入額 700
貸倒引当金繰入額 1,200 / 貸倒引当金 1,200
(2)差額補充法
(仕訳例)
期末に1,000円を貸倒引当金として計上し、翌年1,200円を貸倒引当金として計上する場合
期末
貸倒引当金繰入額 1,000 / 貸倒引当金 1,000
翌年
貸倒引当金繰入額 200 / 貸倒引当金 200
(仕訳例)
期末に1,000円を貸倒引当金として計上し、翌年800円を貸倒引当金として計上する場合
期末
貸倒引当金繰入額 1,000 / 貸倒引当金 1,000
翌年
貸倒引当金 200 / 貸倒引当金戻入額 200
青色申告の特典を受けるためにすべきこと
青色申告の特典の主なものを5つ紹介しましたが、他にも様々あります。青色申告者には様々な特典がありますが、個人事業主が青色申告の特典を受けるには、まず税務署に「青色申告承認申請書」を提出し、承認を得る必要があります。その後、複式簿記で正確な帳簿を作成し、貸借対照表や損益計算書を添付して確定申告を行います。これにより最大65万円の青色申告特別控除を受けられるほか、赤字の3年間繰越や家族への給与の必要経費計上が可能になります。適切な記帳と申告を行うことで、税制上のメリットを最大限に活用できます。
青色申告の承認申請書はいつまでに提出すべき?
個人事業主が青色申告の承認を受けるには、「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。新規開業の場合は、開業日から2か月以内に提出しなければなりません。すでに白色申告をしている場合は、青色申告を適用したい年の3月15日までに提出する必要があります。
例えば、R6年の確定申告を白色申告でしている方が、R7年度から青色申告にて確定申告を行いたい場合は、R7年3月17日(月)までに提出する必要があります。(本来は3月15日までの提出が必要ですが、R7年3月15日は土曜日のため、翌営業日の3月17日(月)が期限となります。)
これから青色申告の承認申請書を提出しようとされている方は、期限厳守で、お手続きください。