所得税~個人にかかる税金

配当所得は総合課税or分離課税をどう選ぶべきか?

 上場株式等の配当がある場合、配当の支払時に源泉徴収の有無により、確定申告が必要なものとしなくてもよいものがあります。また確定申告をする場合には、総合課税か分離課税の選択が可能です。何を選択することが有利なのかは、納税者により様々です。
 納税者にとって有利になるような判断は、どのようにすべきなのでしょうか。

源泉徴収ありorなしの違いによる確定申告の要否

 保有する上場株式等の配当支払い時に源泉徴収されるかどうかにより、確定申告をしなければならないか、しなくてもよいかを判断します。

配当支払い時に源泉徴収されない場合


配当支払い時に源泉徴収がされていない場合には、確定申告をする必要があります。

配当支払い時に源泉徴収される場合


配当支払い時に源泉徴収がされている場合は、確定申告をしなくてもよいことととなっています。
ただし、還付等を受けるために確定申告をすることは可能です。

 配当等の支払いを受ける場合に源泉徴収されるものについては、1回に支払いを受けるべき配当等の額ごとに、申告をするかしないかの選択が可能です。
 同一銘柄の配当で中間配当と期末配当がある場合においても、1回に支払いを受けるごとに申告をするかしないかの選択が可能です。

~例~
①A株式期末配当(源泉徴収あり)➡確定申告要否の選択可 ➡申告しない選択とした

②B株式中間配当(源泉徴収あり)➡確定申告要否の選択可 ➡申告しない選択とした

③B株式期末配当(源泉徴収あり)➡確定申告要否の選択可 ➡申告する選択とした

④C株式期末配当(源泉徴収なし)➡確定申告必要     ➡申告必要

 ①A株式期末配当と②B株式中間配当と③B株式期末配当は、配当の支払い時に源泉徴収ありとなっているため、各配当ごとに確定申告をするかしないかの選択が可能です。

 ②B株式中間配当と③B株式期末配当は、同一銘柄ですが、支払い時ごとに申告をするかしないかの選択が可能なので、中間配当は申告して期末配当は申告しないという選択が可能です。

 ④C株式期末配当は配当支払い時に源泉徴収されていない配当のため、確定申告をする必要があります。

確定申告をする場合~総合課税と分離課税~どっちを選択する?

 上場株式等の配当等について、確定申告をする場合には、総合課税か分離課税かの選択をすることになります。
 総合課税か分離課税か、いずれを選択するかは、納税者自身の判断となります。配当控除を受けたい場合は総合課税を選択することになり、上場株式の譲渡損失と損益通算したい場合は分離課税を選択することとなります。その他のポイントは以下の表のとおりです。

総合課税を選択する場合

ポイント

  • 超過累進税率(5%~45%の所得税、これに復興所得税が加わる)を適用して税額が算出されます。
  • 内国法人から受ける配当等については、配当控除の適用があります。
  • 総合課税を選択した場合は、配当所得と上場株式の譲渡損失との損益通算は出来ません。
  • 不動産所得・事業所得・山林所得・総合課税の譲渡所得のいずれかにおいて損失がある場合には、配当所得を総合課税とすることにより、損益通算が可能となります。

分離課税を選択する場合

ポイント

  • 他の所得と合算せず(15%の所得税、これに復興所得税が加わる)、分離して税額が算出されます。
  • 配当控除の適用は出来ません。
  • 上場株式の譲渡損失がある場合に株式の譲渡損失と配当所得との損益通算が可能です。
  • 他の所得と分離して税額算定をするため、不動産所得・事業所得・山林所得・総合課税の譲渡所得のいずれかにおいて損失があったとしても分離課税を選択した場合は、配当所得との損益通算は出来ません。

 なお、総合課税か分離課税かを選択する場合、一部を総合課税、一部を分離課税とすることは出来ません。

~例~

③B株式期末配当(源泉徴収あり)➡確定申告要否の選択可 ➡申告する選択とした

④C株式期末配当(源泉徴収なし)➡確定申告必要     ➡申告必要

➡”③B株式期末配当&④C株式期末配当”の申告する全てを総合課税か分離課税かの選択しなければなりません。
 ”③B株式期末配当”を総合課税として、”④C株式期末配当”を分離課税とするということは出来ません。

総合課税を選択できない配当等

 配当等によっては、総合課税を選択できない分離課税のみのものは以下のものです。また公社債の利子も総合課税の選択することは出来ません。

  • 証券投資信託以外の公募投資信託の収益の分配
  • 公募の特定受益証券発行信託の収益の分配
  • 公募の特定目的信託の社債的受益権の剰余金の配当

所得税と住民税とで異なる課税方法の選択

 上場株式の配当所得や上場株式の譲渡所得について、所得税と住民税で異なる課税方法の選択をすることが可能です。

 例えば、配当所得(配当支払い時に源泉徴収あり)がある方が、配当控除を受けるために所得税の確定申告にて総合課税又は分離課税の選択をしたとします。特に何の手続きもしなければ、住民税においても所得税と同様の課税方法で算定された税額が課されます。住民税において、配当所得や株式の譲渡所得を申告すると、国民健康保険料や医療費の窓口負担に影響が出る可能性があります。そのため、所得税においては総合課税や分離課税の確定申告をすることを選択しても、国民健康保険料等に影響が出ないようにするために、住民税においては確定申告不要の選択をすることが可能となっています。

所得税で申告を選択し、住民税で申告不要を選択する場合

 上場株式の配当等及び上場株式の譲渡所得について、所得税と住民税とで異なる課税方法を選択したい場合は、住民税の納税通知書の送達前までに住民税の確定申告書を提出する必要があります。令和3年分の確定申告書からは所得税の確定申告書の提出の際に第二表の下の方にある「住民税・事業税に関する事項」の「住民税」のうち「特定配当等・特定株式等譲渡所得の全部の申告不要」に〇をつければ、住民税の申告書を提出しなくても、住民税においては申告不要を選択したこととなります。

所得税と住民税の両方確定申告書をするが、一方を総合課税、もう一方を分離課税とする場合

 所得税と住民税とで異なる課税方法を選択したい場合で、一方が総合課税を選択、もう一方が分離課税を選択したい場合には、所得税の確定申告書と住民税の確定申告書の両方を提出する必要があります。

 令和4年度改正により、令和5年以降の所得税及び令和6年以降の住民税について、上場配当等及び上場株式等譲渡所得は、所得税と住民税の課税方法を一致されることとなりましたので、異なる課税方法の選択は、令和4年までの所得税及び令和5年までの住民税について可能となります。

【令4年度改正】所得税と住民税の課税方法の選択の一致

 令和4年度の改正において、上場株式等の配当等及び上場株式の株式等の譲渡所得について、所得税と住民税との課税方法を一致させることとなりました。そのため、令和5年以降の所得税及び令和6年以降の住民税については、異なる課税方法の選択は出来なくなります

課税方法の変更は可能か?勘違いしやすいこと。

 源泉徴収ありの配当所得や株式の譲渡所得がある場合は、確定申告不要・総合課税・分離課税の選択が可能となっています。
 選択が可能となっているということは、どれも所得税法で認められている方法であるため、一度選択した方法を後から別の課税方法へ変更をするための修正申告書や更正の請求をすることは出来ません。修正申告や更正の請求は、提出した確定申告書の計算に誤りがあった場合や法律に反していた場合に提出が出来るもので、選択できる方法が複数あるものの選択を変更するための修正申告や更正の請求は出来ないこととなっています。

確定申告提出後、修正申告や更正の請求での、課税方法の選択の変更は出来ない。

 ただし、確定申告書を提出した後、確定申告書の提出期限内(3月15日まで)であれば、異なる課税方法へ変更した確定申告書を提出することが可能です。これは修正申告ではなく訂正申告となります。

確定申告期限内に提出する確定申告書は修正申告ではなく訂正申告となり、課税方法の変更は可能。

確定申告をしてない方は5年間遡って申告することが出来ます。

 サラリーマンの方など、確定申告をしなくてもよい方が還付を受けるために確定申告をする場合には、5年間に遡って、確定申告書を提出することが出来ます。
 ただし、既に医療費控除や住宅ローン控除など還付を受けるために確定申告書を提出している場合には、配当所得や株式の譲渡所得の確定申告をする選択が出来ません。
 配当所得や株式の譲渡損益の申告をせず、医療費控除や住宅ローン控除など還付を受けるための確定申告書を提出したということは、既に提出した確定申告書は、配当所得や株式の譲渡所得の申告不要を選択した申告書とみなされるためです。

(余談ですが・・・)医療費控除の還付申告についての勘違い

 納税者の中には、医療費控除の申告と配当所得や株式の譲渡所得の申告は別の手続きと勘違いしている方もいらっしゃいます。
 また、医療費控除の確定申告をすると、支払った医療費が戻ると勘違いされている方がいます。医療費控除による還付申告は、支払った医療費が戻る手続きではありません。医療費控除は、扶養控除や配偶者控除と同様の所得控除の一つです。所得控除は、課税所得を算出する際に合計所得から控除するものです。

 源泉徴収税額(給料や年金等から徴収されている税金)がない方が、たくさん医療費がかかったから医療費の還付を受けたいと相談される方がいますが、納めている税金がない方は、どんなにたくさんの医療費を払っていたとしても、残念ながら戻る税金はありません。

 

【今後の改正】所得税と住民税の課税方式の一体化

 令和4年の税制改正において、所得税と住民税の課税方式を一致させることとなりました。この改正は所得税は令和5年(2023年)、住民税は令和6年(2024年)分から適用されます。

 令和4年分の所得税の確定申告分まで(申告期限R5.3.15)は、これまで通り、所得税と住民税とで別々の課税方法の選択が可能です。

㊟個別の税務判断は、税の専門家の税理士に相談されることをお勧めします。

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