税金に関する「控除」と「減算」の違いを理解することは、税務申告や経理に関わる方にとって重要です。日常の会話ではどちらも「差し引く」という意味で使われることが多いですが、税法や会計の世界では明確に区別されています。この違いを知っておくと、税務におけるさまざまな仕組みがクリアになり、税務申告や経理の際に混乱を避けることができます。
「控除」とは何か?
まず、控除とは、税金の計算において特定の条件を満たす場合に税額や所得から一定の金額を差し引くことを指します。控除はゼロまでしか差し引けないため、控除額が控除対象金額を超える場合、それ以上は減らせないのです。つまり、控除の結果がゼロ以下になることはありません。
例えば、以下のような控除があります。
• 配偶者控除:一定の条件を満たす配偶者を持つ人が受けられる控除
• 所得控除:所得から一定の金額を控除する制度
• 住宅ローン控除:住宅ローンを組んで家を購入した場合に受けられる控除
• 青色申告特別控除:青色申告者が受けられる特別な控除
配偶者控除、扶養控除、医療費控除、社会保険料控除、保険料控除などをまとめて所得控除といいます。
総所得金額の合計から所得控除の合計を控除して課税させる所得金額が算出されます。
課税される所得金額はマイナスになることはありませんので、所得減算ではなく「所得控除」とされているのです。
住宅ローン控除においても、課税所得金額に税率を掛けて税額が算出され、その算出税額から住宅ローン控除を差し引きます。
算出税額を超えて住宅ローン控除額を差し引くことはないため、やはりここでも「控除」が使われています。ちなみに引ききれなかった住宅ローン控除の残額は翌年の住民税から控除されます。
実際の税法の規定にも「控除」という言葉はよく出てきます。
例えば、法人税法22条①では「各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする」とされています。簡単に言うと「所得の金額は、益金から損金を控除した金額とする」です。ここでいう「控除」は、益金から損金を差し引いて所得を計算し、ゼロ以下場合はゼロとするという意味で、所得はプラスを表すものなので、ゼロ以下はあり得ません。益金から損金を差し引いてマイナスになる場合は「欠損金額」というからです。そのため、所得の意義として「益金から損金を控除した金額」とされており、「益金から損金を減算した金額」とはならないのです。
ここで重要なのは、控除の場合はゼロ以下にはならないという点です。結果としてゼロまでしか減らせないというルールがあるため、「控除」とは、ゼロ以下にはならないといことを頭に入れておく必要があります。
例: 50から80を控除する場合
もし50の益金から80の損金を控除する場合、計算結果はゼロとなります。控除しきれない部分は切り捨てられるため、50から80を引いてマイナス30にはならず、ゼロで止まるのです。
「減算」とは何か?
一方で、減算は単純に金額を減らすことを意味します。控除と異なり、減算はマイナスも認められるため、結果がマイナスになる場合もあります。減算はその名の通り、何かから別のものを差し引く計算です。控除とは異なり、減算の結果がマイナスになる場合、そのままマイナスとして記録されることが特徴です。
たとえば、法人税の申告書でよく見られる「別表4」には、加算項目と減算項目があります。ここでは、税務上の特別な調整を行い、所得の金額を増減させます。
例: 50から80を減算する場合
50の利益から80を減算すると、計算結果はマイナス30になります。減算はマイナスを認めるため、差し引いた結果がマイナスになることもあるのです。
まとめ
税の世界で使われる「控除」と「減算」は、どちらも「差し引く」という意味では似ていますが、実際には明確な違いがあります。控除は、マイナスになることはなく、最終的には0が下限となるのに対して、減算はマイナスも認められるため、結果に大きな違いが出る場合があります。この違いを理解することで、申告書をチェックする際に役立ちます。
税金の世界は複雑ですが、基本的な概念を知ることで、税金への理解が深まります。この記事が読者の方の興味の一歩になれば幸いです。