令和6年4月1日から、消費税法における3年縛りのルールに追加される取引があります。これにより、金や白金などの地金を一定金額以上を購入する場合には高額特定資産を取得した場合の3年縛りのルールが適用されることとなり、今まで受けていた「事業者免税点制度」の適用が3年間にわたり制限されることになります。この「3年縛り」ルールは、企業の資金繰りや消費税対策にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
消費税のしくみ…簡易課税制度と事業者免税点制度
まず、今回の改正の背景を理解するためには、消費税の簡易課税制度と事業者免税点制度について簡単に押さえておく必要があります。
簡易課税制度とは、売上に対して事業区分ごとに決められたみなし仕入率を乗じて仕入れ税額控除を計算する方法です。この選択を受けるためには、事前に税務署に「簡易課税制度選択届出書」を提出しておき、基準期間(通常2期前)の課税売上高が5,000万円以下の課税期間において適用される制度となっています。
事業者免税点制度は、基準期間における課税売上高が1,000万円以下であれば消費税の納税義務が免除される制度です。ただし、資本金が1000万円以上の新設法人や特定期間における課税売上高が1000万円超の事業者、課税事業者選択届出書を提出している事業者、適格請求書発行事業者の届出をしている事業者など一定の事業者については、納税義務が免除されません。
そして、消費税の原則課税が適用されている事業年度に高額特定資産を取得した場合、簡易課税制度の選択や免税点制度の適用が3年間制限されることになります。
なぜ3年縛りなのか
消費税の原則課税の計算期間に、調整対象固定資産等を取得した場合、取得した課税期間の課税売上割合に比して、取得した課税期間以後の3年間の通算課税売上割合が著しく増減した場合には、取得した課税期間から3期目(第3年度)の課税期間において、変動調整が行われます。
変動調整が行われると、調整対象固定資産等を取得した課税期間で消費税の還付を受けていても、仕入税額控除の調整計算により第3年度に還付された消費税の一部を納税することとなる場合があります。
そこで、3年縛りの規定が創設される前は、第3年度の課税期間に簡易課税制度を選択したり、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であれば、課税事業者選択不適用届出書を提供して免税事業者になることで、変動調整を逃れようというスキームが横行しておりました。(自販機スキームなどと呼ばれていました。)
2010年の改正により、消費税の原則課税の課税期間中に、調整対象固定資産や高額特定資産を取得した場合には、取得等の課税期間から3年間は免税事業者になれず、また簡易課税制度の選択も出来ないため、3年間は消費税の原則課税の適用を受けることとなります。これが変動調整逃れを排除するために創設された「消費税の3年縛り」となります。
調整対象固定資産とは、一の取引単位につき100万円(税抜き)以上の建物、附属設備、構築物、機械装置、車両、工具器具備品、鉱業権等で棚卸資産資産以外のものとされています。
高額特定資産とは、一の取引単位につき1,000万円以上の棚卸資産または調整対象固定資産をいいます。
改正により新たに、200万円以上の金、白金等の地金についてのR6.4.1以降の購入についてのルールが追加されました。
改正内容の詳細
今回の改正では、200万円以上の金や白金の地金などの高額特定資産を取得した場合、事業者免税点制度が3年間適用されなくなります。具体的には、次のようなルールが適用されます。
課税事業者が、簡易課税制度の適用を受けない課税期間中に、金や白金などの地金等を購入し、その購入額が税抜きで200万円以上の場合、その取得を行った課税期間の初日から3年を経過する課税期間の初日以後でなければ、課税事業者選択不適用届出書や簡易課税制度選択届出書を提出できないため、3年間は消費税の事業者免税点制度や簡易課税制度が受けられないこととなります。
例えば、令和6年の課税期間中に地金等を200万円以上分購入した場合、地金等を購入した課税期間の初日であるR6.4.1から3年を経過する日(R9.3.31)の属する課税期間までの各課税期間において、事業者免税点は適用されず、簡易課税の選択も出来ないので原則課税での計算によることとなります。

この「3年縛り」は、高額資産取得による消費税の租税回避スキームを防ぐための措置です。
高額特定資産として追加 適用される資産の種類
新たな3年縛りルールの「高額特定資産」に追加されたのは、主に金や白金の地金が対象ですが、このルールが適用される高額特定資産がについてまとめてみました。3年縛りの規定を受ける高額特定資産資産の仕入等については、次の通りです
- (NEW)200万円以上の金、白金、その他貴金属等(令和6年4月1日以後)
- 調整対象固定資産…100万円以上の建物、附属設備、構築物、機械装置、車両、工具器具備品、鉱業権等
- 1,000万円以上の棚卸資産
- 自己建設高額特定資産…建設等に要した材料や経費等(事業者免税点制度や簡易課税制度の適用を受ける課税期間の仕入等は除く)の累計額が1,000万円以上になった時
- 免税事業者から課税事業者になったことで、免税期間の仕入等について棚卸資産の調整をした高額特定資産
なお、居住用賃貸建物については、仕入税額控除の適用を受けることが出来なくなりましたが、高額特定資産には該当するため、3年縛りの制限を受けることとなります。
2割特例との関係
2023年10月1日以後、インボイス制度が導入され、免税事業者が適格請求書発行事業者として登録して課税事業者となった場合に、一定の場合を除き、消費税の原則課税・簡易課税に関わらず、2割特例による計算を行うことが出来ることとなっています。
2割特例による計算が出来ない事業者としては、基準期間による課税売上高が1000万円を超える事業者・高額特定資産等を取得し事業者免税点制度の適用を受けらないこととなる事業者・課税期間の短縮の特例を受けている事業者等は2割特例を受けることが出来ません。
2割特例の適用期間は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間となります。
国税庁:2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要
6. 結論・まとめ
今回の令和6年の消費税改正は、特に高額資産の取得を予定している事業者にとって重要な影響を与えます。金や白金の地金購入が消費税の「3年縛り」ルールに該当することで、事業計画に影響を与える可能性があります。
消費税の課税事業者としての手続きには、多くのルールや縛りが存在し、特に高額資産の取得には注意が必要です。還付を期待して課税事業者を選択する場合でも、後から変更できない期間があり、事前の計画が欠かせません。自社の状況に合った制度を選択し、適切な対策を取ることで、無駄な税負担を避けることができます。複雑なルールに不安がある方は、専門家のアドバイスを受けるのも良いでしょう。しっかり準備して、消費税対策を成功させましょう。
※ この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、具体的な税務アドバイスではありません。個別のケースについては、税理士等の専門家にご相談ください。
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