令和2年度税制改正が2020年3月27日に国会で可決・成立しました。
なお、施行日は令和2年4月1日となっています。
今回の税制改正により、”金スキーム”封じの内容が盛り込まれました。この”金スキーム”とは、居住用の家賃収入を得ていアパート経営の大家さんが行う消費税の還付スキームを指します。
以前は、アパート経営の大家さんの消費税の還付スキームとして、”自販機スキーム”と呼ばれるものがありました。
そして、2010年の税制改正により、この”自販機スキーム”が封じ込まれました。
その後、アパート経営の大家さんが受けることが出来る新たな消費税の還付スキームとして出てきたものが”金スキーム”と言われるものです。
そして今回の2020年税制改正により、この”金スキーム”も使えなくなります!
今回の改正により、新たな還付スキームを生み出せなくなったと言えます。
消費税還付スキームとは
Ⅰ.自販機スキーム
では、自販機スキームとは、どういったものだったのでしょうか。
消費税の課税事業者を選択
まず、アパート経営をしようとする大家さんがアパートを取得する前に、「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、消費税の課税事業となります。消費税の課税事業者でなければ、消費税の還付も受けられないためです。
居住用の賃貸物件を取得&自販機設置し売上を得る
課税事業者となった課税期間の期末において、居住用の賃貸建物を取得します。
期末に取得することで、居住用賃貸収入(非課税売上)をゼロ又は僅少にします。
それと同時に、自販機を設置し自販機収入を得て、課税売上を作ります。居住用賃貸建物取得分の消費税額が仕入税額控除として控除できます。売上(自販機収入)に係る消費税から仕入(賃貸建物取得)に係る消費税を控除した金額がマイナスとなれば、仕入として支払った消費税額が売上に係る消費税より多いため、マイナスとなった分の消費税額が還付されるというものです。
もし、自販機を設置しなければ、課税売上がないこととなりますので、居住用賃貸建物の取得に係る消費税額の還付は受けられないこととなります。そのため、僅少の課税売上を得るために、自販機を設置します。
消費税の確定申告書を提出して還付を受ける
消費税の確定申告書を提出し、消費税の還付を受けたら、「課税事業者選択不適用届出書」を提出します。居住用の家賃収入は非課税売上であり、自販機の売上の課税売上は少額であることから、基準期間の課税売上は1000万円以下となり、消費税の免税事業者に該当し、消費税を納めることはないこととなります。
以前は3年縛りの規定はなく、還付逃げが出来ていた
1000万円以上の固定資産は調整対象固定資産に該当し、取得した課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間(第3年度の課税期間)の末日まで当該調整対象固定資産を保有しており、課税売上割合が著しく変動した場合には、第3年度の課税期間において仕入税額控除の調整をすることとなります。
しかし、「課税事業者選択不適用届出書」を提出し、消費税の免税事業者になれば、第3年度の調整対象固定資産の変動調整を受けることがなく、還付された消費税額を納税することを逃れることが可能でした。
もしくは、既に基準期間の課税売上が1000万円超で5000万円以下であれば、消費税の免税事業者にはなれませんが、消費税の簡易課税制度の適用を受けることが出来ます。
簡易課税制度を選択すれば、売上に係る消費税に基づいて仕入に係る消費税の計算をするため、「消費税の簡易課税制度の選択届出書」を届け出ることにより、調整対象固定資産の調整を受けずに済むというものです。
還付逃げが出来ないように、税制改正で3年縛りをつくり自販機スキームが崩れた
この”自販機スキーム”と呼ばれる消費税の還付を受けるためのスキームは、消費税法の仕組みと抜け穴を利用したものでした。
そこで、2010年の税制改正により、消費税の原則課税が適用されている課税期間中に、調整対象固定資産や高額特定資産を取得した場合は、3年目以降でなければ、「課税事業者選択不適用届出書」や「簡易課税制度選択届出書」を届け出ることが出来ないこととされました。
つまり、2010年の改正により、調整対象固定資産や高額特定資産を取得した事業者は、取得等の日の属する課税期間の初日から原則3年間は、免税事業者になることが出来ず、また簡易課税制度の選択も出来ないこととされました。
これにより、賃貸建物の取得から3年目においても、課税事業者となり、調整対象固定資産の調整が入り、還付された消費税額を納付することとなり、自販機スキームのメリットがなくなりました。
これにより”自販機スキーム”は崩れました。
Ⅱ.金スキーム
自販機スキームが崩れたことにより新たに出てきた金スキーム
自販機スキームが崩れたことにより、新たに登場したのが”金スキーム”と呼ばれるものです。
この場合の「金」とは”Gold”のことで、金の現物売買は、消費税法において、課税取引となり、これを利用したものが”金スキーム”と呼ばれるものです。
金の売買を繰り返し、調整対象固定資産の調整を回避というスキーム
居住用の家賃収入のみであれば、非課税売上しか立たず、課税売上がないため課税売上割合がゼロとなり、居住用賃貸建物を取得したとしても、仕入税額控除ができず、居住用賃貸建物に係る消費税の還付を受けることが出来ません。
そこで、課税売上割合を高くして消費税の還付を受け、第3年度の調整対象固定資産の調整を回避しようというスキームが出てきました。
それが、居住用の家賃収入に応じた課税売上を作るために、金等の売買を繰り返し、課税売上割合を引き上げて、調整対象固定資産の調整を回避しようというものです。
金等は、売買手数料がかかるものの、時価の変動が少ないため売買を繰り返すことで、課税売上を作ることが出来、また手持資金の減少も抑えられます。
同時に、居住用賃貸建物を取得してから3年間は、金等の売買を繰り返すことで、課税売上割合の変動差を少なくし、調整対象固定資産の調整を受けることもなくなります。
改正により、居住用賃貸建物の取得については、仕入税額控除の対象外となります。
今回の消費税法の改正において、居住用賃貸建物の取得等に係る消費税については、仕入税額控除の対象外とされました。これにより、居住用賃貸建物を取得した場合において、消費税の還付を受けられなくなりました。
居住用賃貸建物の取得に係る消費税の還付については、これまで”自販機スキーム”や”金スキーム”が行われてきましたが、今回の改正により、新たな消費税の還付スキームの登場を封じ込められ、納税者側と課税庁側の闘いに終止符が打たれたのではないでしょうか。
適用開始時期
居住用賃貸建物の取得等に係る消費税について、令和2年10月1日以後の取得について、仕入税額控除の対象外とされます。
なお、経過措置として、令和2年3月31日までに締結した契約に基づき令和2年10月1日以後に行われる居住用賃貸建物の課税仕入れ等については、従前の取り扱いとされます。
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