企業の成長において、従業員の賃上げは重要な要素の一つです。しかし、賃上げにはコストが伴うため、慎重な判断が求められます。そこで注目されるのが「賃上げ促進税制」です。
この制度は、2024年には改正が行われ、企業にとってより活用しやすい内容に強化されています。
本記事では、具体的な改正内容と経営者が知っておくべきポイントを解説します。
賃上げ促進税制の強化:中小企業と大企業に与える影響
2024年度から賃上げ促進税制の強化が図られ、経営者にとって重要な選択肢となる可能性があります。賃上げ促進税制は、企業が従業員の賃上げを行う際に税額控除の優遇を受けられる制度です。企業が一定の賃上げを実施した場合、法人税や所得税から税額控除することで、賃上げを促進し、企業の成長と従業員のモチベーション向上を支援するものです。
特に中小企業や大企業に向けた変更点が注目されています。
1. 大企業向け賃上げ促進税制の見直し
従来、大企業に対しては、賃上げ率に応じた税額控除が提供されていましたが、今回の改正でその内容がさらに充実しました。賃上げが4%以上の場合は税額控除率がで15%、5%以上で追加で20%、7%以上で25%の控除が適用されます。さらに、「プラチナくるみん」や「プラチナえるぼし」といった認定を受けた場合、追加で5%の控除が得られるため、より積極的な賃上げを促進しています。これらの措置の適用期限は3年間延長され、企業が長期的な賃上げ計画を立てやすくなりました。
大企業向け …青色申告書を提出する全法人又は個人事業主が対象 | ||
適用要件(適用期間R6.4.1~R9.3.31) | 控除率 | |
通常 | 雇用者給与等支給額が前年度と比べて3%以上増加 | 10% |
雇用者給与等支給額が前年度と比べて4%以上増加 | 15% | |
雇用者給与等支給額が前年度と比べて5%以上増加(新設) | 20% | |
雇用者給与等支給額が前年度と比べて7%以上増加(新設) | 25% | |
上乗せ① | 教育訓練費の額が前年度と比べて10%以上増加していること 適用事業年度の教育訓練費の額が適用事業年度の雇用者給与等支給額の0.05%以上であること | 5% 上乗せ |
上乗せ② | 適用事業年度終了時においてプラチナくるみん認定、又はプラチナえるぼし認定を取得していること | 5% 上乗せ |
2. 中堅企業向けの新措置
従業員数が2,000人以下の企業(中堅企業)についても、新たに賃上げ促進税制が適用されます。3%以上の賃上げを行った企業は、10%の税額控除を受けることができます。さらに、賃上げが4%以上であれば25%の控除が、教育訓練費の増加割合が10%以上であれば追加で5%の控除が適用されます。これにより、教育訓練に投資する企業も同時に恩恵を受けることができ、従業員のスキルアップにも寄与します。
中堅企業向け(新設) ・・・青色申告書を提出する従業員数2000人以下の法人又は個人事業主 | ||
適用要件(適用期間R6.4.1~R9.3.31) | 控除率 | |
通常 | 雇用者給与等支給額が前年度と比べて3%以上増加 | 10% |
雇用者給与等支給額が前年度と比べて4%以上増加 | 25% | |
上乗せ① | 教育訓練費の額が前年度と比べて10%以上増加していること 適用事業年度の教育訓練費の額が適用事業年度の雇用者給与等支給額の0.05%以上であること | 5% 上乗せ |
上乗せ② | 適用事業年度中にえるぼし認定(3段階目以上)を取得したこと 又は適用事業年度終了時においてプラチナくるみん認定、若しくはプラチナえるぼし認定を取得していること | 5% 上乗せ |
3. 中小企業向けの税制強化
中小企業に対しては、特に教育訓練費に関連した優遇措置が拡充されました。教育訓練費の増加が5%以上となった場合、税額控除率の上乗せが可能となり、くるみんやえるぼし(2段階目)の認定を受けた企業には追加で5%の控除が適用されます。さらに、5年間の繰越控除制度が導入されるため、人財投資のタイミングを柔軟に選ぶことができるようになりました。
中小企業向け ・・・青色申告書を提出する中小企業者等(資本金1億円以下の法人等)又は従業員数1000人以下の法人又は個人事業主 | ||
適用要件(適用期間R6.4.1~R9.3.31) | 控除率 | |
通常 | 雇用者給与等支給額が前年度と比べて1.5%以上増加 | 15% |
雇用者給与等支給額が前年度と比べて2.5%以上増加 | 30% | |
上乗せ① | 教育訓練費の額が前年度と比べて5%以上増加していること 適用事業年度の教育訓練費の額が適用事業年度の雇用者給与等支給額の0.05%以上であること | 10% 上乗せ |
上乗せ② | 適用事業年度中にくるみん認定、くるみんプラス認定若しくはえるぼし認定(2段階目以上)を取得したこと 又は適用事業年度終了時においてプラチナくるみん認定、プラチナくるみんプラス認定若しくはプラチナえるぼし認定等を取得していること | 5% 上乗せ |
くるみん・えるぼし認定のとは
くるみんおよびえるぼしの認定は、企業が一定の基準を満たして従業員に対して働きやすい環境を提供していることを示す国の認定制度です。この認定を受けた企業は、賃上げ促進税制において特別な優遇措置を受けられます。具体的には、賃上げ促進税制の税額控除率が上乗せされ、通常の控除に加えて追加で5%の控除が適用されます。また、企業の社会的評価や従業員満足度向上にも繋がるため、積極的な取り組みを検討する価値があります。
くるみん
くるみんは、育児支援に積極的に取り組む企業に対して厚生労働省が認定する制度です。基本的なくるみん認定を受けた企業の中で、さらに高い水準の子育て支援を行っている企業がプラチナくるみんの対象となります。プラチナくるみんの認定を受けるためには、育児休業制度の充実や短時間勤務制度の導入、男性の育児参加の促進など、法定以上の取り組みが必要です。
えるぼし
えるぼしは、女性の活躍推進に積極的な企業に対して認定される制度です。えるぼしには1段階目から3段階目までの評価がありますが、プラチナえるぼしはその中でも最も高い基準を満たした企業に与えられます。認定の基準には、女性管理職の割合や職場環境の整備、育児と仕事の両立支援などが含まれ、女性が働きやすい職場作りが進んでいる企業が認定を受けます。
経営者が考慮すべきポイント
賃上げ促進税制の強化により、賃金引き上げを行うことが中長期的な企業の競争力強化に繋がる可能性が高まりました。しかし、この制度を活用するためには、具体的な計画や認定の取得、教育訓練費の効果的な増加を視野に入れる必要があります。また、プラチナくるみんやプラチナえるぼしの認定を受けることで、税額控除率の上乗せが可能となり、さらにメリットが得られます。
税制改正に対応した戦略的な意思決定が求められるため、税理士などの専門家の助言を受け、最大限に制度を活用することが企業の成長につながります。
中小企業庁:中小企業向け賃上げ促進税制
経済産業省:大企業向け賃上げ促進税制