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税務署のチェックが厳しくなりそう?~法人が支払う倒産防止共済の掛金(2つの処理方法と添付明細書)

 個人事業主が、節税のために倒産防止共済掛金を掛けているケースにて、確定申告書に添付すべき掛金の明細書の添付の不備がある申告者が見逃されている可能性があると会計検査院の指摘があったという報道がありました。倒産防止掛金の明細書添付については、今後、税務署において厳しくチェックされそうです。

 中小企業倒産防止共済の掛金を支払った場合の処理について見ていきます。

中小企業倒産防止共済とは

 中小企業の取引先が倒産した場合に、連鎖倒産や経営難に陥ることを防止するための制度で、無担保・無保証で掛金の10倍までの借り入れが出来ます。
 掛金については、法人税においては損金算入され、所得税においては必要経費として算入でき、節税効果があります。

法人の処理方法は「費用計上」と「資産計上」の2つの方法あり

 法人が、中小企業倒産防止共済に加入し、掛金を支払った場合の会計上の処理は費用計上(損金経理)する方法と資産計上(積立て経理)する方法があります。

費用計上(損金経理)の場合

 

費用計上(損金経理)する場合の会計処理
 この事業年度において年間12万円の掛金を支払ったとします。

  (支払保険料)120,000 / (普通預金)120,000

法人税の確定申告書における別表記載

  別表4  調整なし
  別表5(1)記載なし

資産計上(積立て経理)の場合

 

資産計上(積立て経理)する場合の会計処理
 この事業年度において初めて年間12万円の掛金を支払ったとします。(前年までの掛金の支払いは無いと仮定します。)

  (保険積立金)120,000 / (普通預金)120,000

法人税の確定申告書における別表記載

  別表4 保険積立金認定損(減算・留保) 120,000 (下図①参照)
  別表5(1)保険積立金 (当期増加③欄) △120,000 (下図②参照)


①積立て経理をした場合の別表4の記載方法

②積立て経理をした場合の別表5(1)の記載方法

倒産防止掛金の損金算入については、損金経理は要件とされていない

 中小企業倒産防止共済の掛金については、確定申告書に明細書を添付し、法人税の申告において適用額明細書の記載があれば、損金算入が認められます。倒産防止共済の掛金については、減価償却費の計上のように損金経理は要件となっていません。

租税特別措置法 第66条の11 
(特定の基金に対する負担金等の損金算入の特例)
 法人が、各事業年度において、長期間にわたつて使用され、又は運用される基金又は信託財産に係る負担金又は掛金で次に掲げるものを支出した場合には、その支出した金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。
 略
 独立行政法人中小企業基盤整備機構が行う中小企業倒産防止共済法の規定による中小企業倒産防止共済事業に係る基金に充てるための同法第2条第2項に規定する共済契約に係る掛金
三~五 略
 前項の規定は、確定申告書等に同項に規定する金額の損金算入に関する明細書の添付がない場合には、適用しない。ただし、当該添付がない確定申告書等の提出があつた場合においても、その添付がなかつたことにつき税務署長がやむを得ない事情があると認める場合において、当該明細書の提出があつたときは、この限りでない。

法人における損金算入の要件と個人における必要経費算入の要件

法人の場合

確定申告書に明細書の添付が必要となります。また、適用額明細書の記載も必要です。

個人の場合

「中小企業倒産防止共済掛金の必要経費に関する明細書」を作成 のうえ、確定申告書に添付する必要があります。

損金算入に関する明細書の添付とは

法人税の申告において、倒産防止掛金の支払いがある場合には、損金算入するために別表10(7)をつけます。

別表10(7)の一番下の枠内「Ⅲ 特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書」に記載します。



基金に係る法人名(23)欄・・・独立行政法人中小企業基盤整備機構
基金の名称(24)欄・・・・・・中小企業倒産防止共済事業
告示番号(25)欄・・・・・・・記載なし
当期に支出した負担金当の額(26)欄・・当期に支払った掛金の額(例の場合は120,000)
同上のうち損金の額に算入した金額(27)欄・・(26)欄と同額






なお、適用額明細書にも下記のように記載が必要となります。

費用計上(損金経理)のメリットとデメリット

 費用計上のメリットとしては、別表調整がないため、申告書作成が分かり易いという点が挙げられます。デメリットとしては、何年も掛金を掛けていると、その時点での掛金総額がいくらになっているか容易に分からないという点が挙げられます。ただし、年に一度、その時点での掛金の総額がいくらかというお知らせがセーフティ共済より届くようですので、そこで確認は可能です。

資産計上(積立て経理)のメリットとデメリット

 資産計上のメリットとしては、試算表や決算書を見ることで、その時点の掛金とこれまでの掛金の総額が分かる点が挙げられます。デメリットとしは、申告調整をする必要がありますが、申告調整の処理方法が分かれば、難しい処理ではありません。

オススメの処理はどっち?

 個人的なオススメの処理方法は、資産計上(積立て経理)をして、申告調整する方法です。申告調整は難しい処理ではありません。また会計処理において資産計上しているため、試算表を確認することで、積立額がいくらか把握することが容易となります。
 ただし、費用計上も資産計上も間違った処理ではないので、担当者の好みの処理方法でよいと思います。

 なお、個人事業主が倒産防止掛金の支払いをした場合については、所得税の申告書の作成が、法人税の申告書のように別表調整をするものではないため、費用計上するようになります。

参考:これまで損金経理をしていたものを、積立て経理に変更する方法

一例として、前期まで費用計上(損金経理)していたものを、当期から資産計上(積立て経理)に変更した場合の処理方法として、次のものがあります。

 会計処理

当期の掛金支払額
(当期に12万円の掛金を支払ったと仮定します)
(保険積立金) 120,000 / (普通預金) 120,000

過年度の掛金の支払額
(過年度にかけた掛金の合計が120万円だったと仮定します)
(保険積立金) 1,200,000 / (前期損益修正益)1,200,000

 

 別表4の記入例

当期の掛金支払額
(当期に12万円の掛金を支払ったと仮定します)
 保険積立金認定損(減算・留保)120,000

過年度掛金の支払額
(過年度にかけた掛金の合計が120万円だったと仮定します)
 前期損益修正益(減算・留保)1,200,000

別表5(1)の記入例
保険積立金 △1,320,000(当期増加③欄)


個人事業主が倒産防止共済の掛金を支払った場合

 個人事業主に中小企業倒産防止共済の掛金の支払いがあった場合には、「中小企業倒産防止共済掛金の必要経費に関する明細書」を作成し、確定申告書に添付する必要があります。
 様式については任意となっており、経営セーフティ共済HPにある様式を参考に作成し確定申告書に添付すれば問題ありません。

経営セーフティ共済(中小機構)より

㊟個別の税務判断は、税の専門家に相談されることをオススメします。

※アフェリエイトを利用しています。

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