「役員報酬は損金にならないのに、使用人給与は損金にできるってどういうこと?」
使用人兼務役員の給与設定に悩んだことのある経営者の方は多いのではないでしょうか。役員でありながら、部長や課長などの役職を兼ねて実務にあたっている場合、給与の税務上の取り扱いが非常に複雑になります。
この記事では、法人税における使用人兼務役員の定義や、給与・賞与の損金算入要件について、図や表を交えながら分かりやすく解説していきます。
1.使用人兼務役員とは?その定義と条件
法人税法では、使用人兼務役員を次のように定義しています。
「役員のうち、部長、課長その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ常時使用人としての職務に従事するもの」
たとえば、営業部長や経理部長、工場長、支店長などの肩書きを持ち、日常的にその職務に従事している役員が該当します。
注意したいのは「○○担当」や「非常勤」といった形式だけの立場では、使用人としての実態がないと判断されるため、使用人兼務役員とは認められないという点です。
2.使用人兼務役員になれない役員とは
法人税法上、以下のような役員は原則として使用人兼務役員にはなれません。
・代表取締役、社長、理事長、清算人などの代表者
・副社長、専務、常務などの経営幹部
・合名会社・合資会社・合同会社の業務執行役員
・指定委員会等設置会社の取締役や監査役
また、同族会社の役員については、特定の株主グループとの関係によって、使用人兼務役員と認められない場合があります。所有割合の要件はかなり複雑なので、該当しそうな場合は専門家に確認するのが安全です。
(参考)また下記に該当する場合にも、使用人兼務役員になれません。
同族会社の役員のうち、次の①~③の所有割合判定の要件をすべて満たしている者
①第1順位の株主グループの所有割合が50%超である場合において、第1グループにその役員が属している。
(又は)
第1順位と第2順位の株主グループの所有割合の合計が50%超である場合において、第1グループ又は第2グループにその役員が属している。
(又は)
第1順位、第2順位、第3順位の3つの株主グループの所有割合を合計すると50%超である場合において、第1グループ、第2グループ、第3グループのいずれかのグループにその役員が属している。
②その役員の属する株主グループが10%超である。
③その役員(その役員の配偶者及びその役員と配偶者とで保有している所有割合が50%超の他の会社を含みます。)の所有割合が5%超である。
※所有割合判定をする場合の株主グループは、所有割合が大きいものから順位を付していきます。

3.使用人兼務役員の給与と賞与の取扱い【全体像の整理】
使用人兼務役員の給与は、「役員報酬」と「使用人給与」の2つに分けて考える必要があります。それぞれ税務上の取り扱いが異なり、要件を満たさなければ損金として認められません。
給与・賞与の損金算入早見表(役員/使用人別)
区分 | 損金算入 | 要件 |
---|---|---|
役員分・給与 | ○ | 定期同額給与に該当すること |
役員分・賞与 | ○ | 事前確定届出給与の届出とそのとおりの支給 |
使用人分・給与 | ○ | 他の使用人と同様 |
使用人分・賞与 | ○ | 他の使用人と同じ時期、同様の取扱い |
それでは、各項目ごとに詳しく見ていきましょう。
4.役員報酬部分の給与:定期同額給与のルール
役員として支給する給与(報酬)は、「定期同額給与」として支給されていなければ、損金には算入されません。
「定期同額給与」とは、毎月同じ金額で、一定の時期に継続して支払われる給与のことをいいます。例えば、毎月25日に50万円を支給するようなケースです。
この金額を途中で変更したい場合は、会計期間開始から3か月以内に行う必要があります。それ以外の時期に変更した場合、定期同額給与に該当しない部分の金額は損金不算入となるため注意が必要です。
5.役員報酬部分の賞与:事前確定届出給与のルール
使用人兼務役員に対して賞与を支給する場合でも、役員分の賞与については「事前確定届出給与」として取り扱われる必要があります。
これは、税務署に対して、
- 支給時期
- 支給金額
- 支給対象者
を事前に届け出ておくことで、届出どおりに支給された場合に限り、損金算入が認められる制度です。
■届出期限のポイント
- 通常の法人:
次のいずれか早い日が届出期限となります。
① 株主総会の決議日から1か月以内
② 事業年度開始の日から4か月以内
<例>株主総会:5月25日 → 6月24日
期首:4月1日 → 7月31日
➡この場合の届出期限は「6月24日」 - 新設法人:
設立の日から2か月以内
届出を忘れると、その賞与は全額損金不算入となります。支給額や日付のズレもNGなので、厳密に管理することが求められます。
定期同額給与や賞与支給日の管理には、クラウド会計ソフトを活用するのもおすすめです。
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6.使用人給与・賞与の取り扱い
使用人として支給する給与や賞与は、原則として他の従業員と同じルールで損金算入が可能です。
ただし、賞与については他の従業員と異なる時期に支給した場合、税務上「役員賞与」とみなされ、損金不算入とされる可能性があります。未払経理を行っても同様です。
他の使用人と同様のタイミング、同様の基準で支給していることが重要です。
📌補足:税務調査で否認されやすいポイント
▼税務調査で否認されやすい!使用人兼務役員に関する主な論点
- 肩書きだけの「○○担当」「○○係」
→ 「経理担当」「営業担当」などは職制上の地位と認められず、使用人と判断されない可能性が高くなります。
役職名に「部長」「課長」「支店長」などの明確なポジションを設定しておく必要があります。 - 「常時従事」の実態が曖昧
→ 他の事業や役員業務が中心で、「使用人としての職務に従事していない」と判断されると、兼務の実態が否認されます。
週何日、どのような時間配分で勤務しているか説明できるよう、業務日報やスケジュール管理が有効です。 - 職務分掌の未整備
→ 使用人としての具体的な役割や権限、他の社員との指揮命令系統が整理されていないと、実態が否定されやすくなります。
社内規程や職務分掌規程、組織図の整備が重要です。 - 賞与支給時期が他の従業員とズレている
→ 「使用人としての賞与」として損金算入を受けるには、支給時期が他の使用人と同一である必要があります。
1人だけ支給月がずれている場合、税務調査で否認されることがあります。
7.実務上の注意点とトラブル回避のポイント
- 「営業担当」「経理担当」などの肩書きは使用人としての職制上の地位に該当しない可能性が高く、税務調査で否認されやすいです。
- 使用人兼務役員としての実態を証明するため、職務分掌書や業務日報の整備も有効です。
- 配偶者など家族を使用人兼務役員としている場合、同族会社の判定条件を満たしていないか注意しましょう。
まとめ|給与の性質ごとに正確な区分と届出を
使用人兼務役員は、「役員報酬」と「使用人給与」の両面を持つ特殊な存在です。
税務上の正しい区分と、必要な届出や支給タイミングを守らなければ、せっかく支払った給与が経費として認められない可能性もあります。
経営者としては、形だけでなく「実態」や「証拠資料」の整備も大切です。少しでも不安な点があれば、税理士などの専門家に早めに相談することをおすすめします。
※使用人兼務役員の判断や報酬設計は非常に繊細です。自社だけで判断せず、早めに税理士に相談するのがおすすめです。
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参考:国税庁
タックスアンサー 法人税 No.5205 役員のうち使用人兼務役員になれない人
タックスアンサー 法人税 No.5350 使用人賞与の損金算入時期
法令解釈通達 第6款 過大な役員給与の額
※本記事は2020年7月31日に公開された内容を、2025年7月に最新の制度内容を踏まえて加筆修正しています。
㊟個別の税務判断は、税の専門家に相談されることをオススメいたします。

