店舗付き住宅(店舗併用住宅)の取得の検討をされている方に、参考となる税務の取扱いをまとめてみました。
Ⅰ.店舗付き住宅(店舗併用住宅)についての住宅ローン控除の適用の有無
Ⅱ.店舗併用住宅を取得した場合、事業所得の計算上必要経費とされるもの
Ⅲ.店舗部分についての消費税の仕入税額控除の可否
について見ていきます。
店舗付き住宅とは

ここで言う店舗付き住宅とは、1棟の家屋で、事務所や店、診療所など事業用の店舗部分と、住居部分とが併用となっている家屋を前提としています。
Ⅰ.店舗併用住宅を取得した場合の所得税の住宅ローン控除
マイホームを取得等した場合において、一定の要件を満たすと、住宅ローン控除を受け、所得税や個人住民税の節税が出来るということを、ご存じの方は多いのではないでしょうか。
マイホームの取得は、大きな買い物になるため、税金を減らすことが出来れば、嬉しいのではないでしょうか。
マイホームを取得した場合の住宅ローン控除を受けるためには、一定の要件を満たす必要があり、店舗併用住宅を取得した場合においても、要件を満たせば、住宅ローン控除の適用を受けられます。
住宅ローン控除の適用要件
住宅ローン控除を受けるための要件として、下記の要件を満たす必要があります。
①住宅ローン控除の適用を受ける年分の合計所得金額が3,000万円以下であること
②新築または取得の日から6か月以内に居住し、その年の12月31日まで引き続き住んでいること
③新築または取得した住宅の床面積が50㎡以上であり、床面積の2分の1以上の部分が専ら自己の居住の用に供するものであること
④住宅の新築又は取得のために、金融機関等にて10年以上のにわたり分割して返済する借入金があること
⑤居住の用に供した年とその前後2年ずつの5年間に居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の特例等の一定の特例の適用を受けていないこと
*令和2年4月1日現在の法令によります。
床面積が50㎡以上とは
店舗併用住宅取得の時に住宅ローン控除を受ける場合、上記要件③の床面積が50㎡以上かどうかの判断に迷いがちです。
まず、住宅の床面積が50㎡以上である必要がありますが、50㎡以上かどうかの確認は、売買契約書ではなく、登記簿謄本にて確認する必要があります。
この店舗併用住宅の床面積が50㎡以上であるかどうかの判断について、店舗と住居を合わせた全体の床面積が50㎡以上かどうか、ということになります。
また、その店舗併用住宅が数人の他者と共有となっている場合においても、その他者の共有持分の部分も合わせたその家屋の床面積全体で判断します。
なお、この店舗部分については、自己が使用するものであることとされます。
床面積の2分の1以上が自己の居住の用であること
店舗部分の床面積が建物全体の床面積の2分の1未満である必要があります。店舗部分が半分を超えてしまうと、住宅ローン控除の適用は受けられません。
参考までに、金融機関では、店舗併用住宅の取得のためのローンについては、住居分は住宅ローンで、店舗部分は事業者ローンとして組まれることが多いようですが、銀行によっては、店舗部分と住宅部分を住宅ローン1本で組めるところもあるようです。
住宅ローン控除が適用される部分は?
住宅ローン控除が適用されるのは、住宅部分のみとなります。店舗等の部分はローン控除の適用は出来ません。
ただし、居住の用に供する部分に要した費用が全額のおおむね90%以上である場合は、その全額が居住用に供している部分に該当しているものとして取り扱うことが出来るとされています。
Ⅱ.事業所得の計算上、必要経費となるものは?
店舗部分に対する借入金利息・固定資産税・火災保険料・減価償却費については、事業所得の計算上、必要経費に算入することが出来ます。この場合の事業使用割合については、店舗兼住宅における全体の床面積のうち店舗部分に相当する割合にて計算することが一般的です。
Ⅲ.店舗部分についての消費税の計算
店舗併用住宅を取得した場合においても、店舗部分については、事業用資産の取得ということになります。
店舗併用住宅を取得した事業者が、既に消費税の納税義務者であり、消費税の簡易課税制度の選択を受けていなければ、取得した店舗併用住宅の取得費用のうち、床面積にて按分計算した店舗部分に係る金額が、消費税の計算上、仕入税額控除の額に算入されます。
簡易課税制度の選択を受けている場合は
消費税の納税義務者のうち小規模事業者で、簡易課税制度の適用を受けているの個人事業者であれば、店舗併用住宅の取得予定の年の前年の12月31日までに、消費税の簡易課税制度選択不適用届出書を納税地の所轄税務署に提出することにより、取得した年分の消費税の計算において、原則課税により計算することとなり、店舗併用住宅の店舗部分に係る金額を、仕入税額控除の額に算入することが出来ることとなります。
店舗等の固定資産の取得は、金額が大きいことから、簡易課税制度を選択するより原則課税を選択することが有利なことがあります。
消費税の免税事業者である場合は
消費税の免税事業者である個人事業者が、消費税の還付を受けたい場合には、還付を受けたい年の前年の12月31日までに、消費税の課税事業者選択届出書を税務署に提出する必要があります。
高額特定資産を取得した場合の3年しばり
店舗などの高額特定資産を取得した場合は、その高額特定資産を取得した日の属する年から3年間は、消費税の簡易課税制度の選択及び課税事業者選択届出書を提出した事業者が免税事業者に戻ることが出来ず、消費税の原則課税により計算することになります。
そのため、高額特定資産を取得予定の場合には、取得予定の年分の消費税の計算のみならず、3年分の消費税の計算について、原則課税と簡易課税との両方を事前に試算し、どちらが事業者に有利になるかを判断する必要があります。
高額特定資産とは…一つの取引単位につき、税抜対価の額が1,000万円以上の棚卸資産又は、100万円以上の固定資産等のこと
簡易課税制度が有利な場合もある
簡易課税制度は、売上に対する消費税から業種別のみなし仕入れ率を乗じて計算した金額を仕入税額控除として計算する方法です。そのため、簡易課税制度の選択をしている事業者の方は、原則課税より簡易課税の方が消費税の計算上有利になっていることが多いです。
消費税の計算構造上、売上高のうち非課税売上が多い業種(医業・居住用賃貸業など)においては、簡易課税制度の方が有利となっています。
ただし、固定資産など、取得する資産によっては、簡易課税制度の選択を受けていることが不利になる場合があります。
その場合には、業種・売上高・費用及び取得する固定資産の金額等、固定資産取得後の売上予想や経費予想などを勘案して、原則課税と簡易課税のどちらが有利になるかの判断が必要となります。
㊟個別の税務判断は、税の専門家に相談されることをオススメいたします。
参考:国税庁
・住宅を新築又は新築住宅を取得した場合(住宅借入金等特別控除)
・居住の用に供する部分の敷地の面積
・高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除等の特例
・課税売上割合が著しく変動したときの調整